Shigeru Nishikawa

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Sealed House 121-New National Stadium 2- 970×1940mm oil, graphite, metal powder on canvas, panel 2020

大和文華館、笠置

雨の土曜日、近所にある大和文華館の「大和文華館開館 60周年記念 コレクションの歩み展 Ⅰ」を観に行く。ここは小さいけれど凄く素敵な美術館で、今回のコレクション展では全48件の出陳作品のうち、国宝4件、重要文化財17件が出陳されている。

法華経の一文字一文字が仏に見立てられて蓮台にのり金輪が付されている、国宝の一字蓮台法華経(普賢菩薩勧発品)。一文字一文字を仏に見立てって、凄い美意識やなーと魅入ってしまう。婦女遊楽図屏風(松浦屏風)の金地屏風の群像表現にも惹かれて、ゆっくりと椅子に座って観て過ごす。展示室もワンフロアで普通に歩いて回ると1分くらいしかかからない。小さくて、優雅で、この美術館はやっぱり良いな~とのんびりと鑑賞する。

帰り際、美術館の職員さんが虫アミを手に入り口の自動ドアで何かをしている。よく見ると館内に入り込んでしまったトンボを外に出そうと奮闘していた。大きなこれまた素敵な庭園に囲まれているので、よく虫が入り込んで来るそうで、虫アミは常備されているらしい。自動ドアの上でジージーと飛びあぐねているトンボをアミにすがらせて救出に成功。みんなでホッと良い空気が流れ込む。

その後、友人の車で笠置寺に向かう。

展示されていた笠置曼荼羅図にかつてあったという十三重塔が描かれており、友人の提案で笠置寺に向かって見ることに。着いたのは四時を回っており、参拝者の姿もなく、虫や鳥の声が響くばかり。

何度か近くは通っていたがこんな所だったとは知らなかった。

その昔、天智天皇の皇子の大海人皇子が狩猟に出かけ、鹿を追っていたが、大きな岩の上で進退に窮まった際に、山の神に岸壁に弥勒仏の像を掘る事を約束し、窮地を脱したという。その場所を忘れないようにと笠を置いた石が笠置石といい、地名の由来となったという。

本当に大きな岩でそれだけでも来た甲斐があった。

そしてその巨岩の一つに掘られた弥勒磨崖仏。黒ずんだ輪郭線のみが残っていたがそれだけでも異様な雰囲気が漂っている。その岩の横に、先ほど大和文華館で見た塔が建立されていた跡地があった。この狭い範囲に?と思うほどの場所だった。

さらに進むと弘法大使が一夜にして彫ったという伝虚空蔵磨崖仏が姿を表す。

道すがらにも大きな岩がゴロゴロと転がっており、頂上あたりに抜けると眼下には木津川の流れに沿って点在する集落が広がっている。

雲海も見えるというこの場所からの眺めもまた良い。

雨がパラパラと降り始めてきて、時間も遅かったのでその日はそこで引き返す事に。

戻って来ると山からはすでにヒグラシの声がこだましている。

どうしてこうもヒグラシの声はいつも胸を打つのか。

子供の頃、地元の八十川に鮎を突きに上流まで登った後の帰り道に聞くヒグラシの声は、いつもいつもその日の、季節の終わりを告げていた。

子供ながらにこの世界が無限でないことを、夏休みの終わりと、ヒグラシの声が教えてくれたように思う。

朝から海で泳いで後、シャワー代わりに川でも泳いで昼寝して、少し涼しくなった夕方からサッカーをして、夜は花火戦争をする。

今思うと宝物のような日々だった。